『神器―軍艦「橿原」殺人事件』(奥泉 光)

かなり前になるけど、『グランド・ミステリー』という同じく奥泉 光作で、やはり同じく戦争時代を舞台設定にしたミステリーを読んで悪い印象は残っていないので、この『神器―軍艦「橿原」殺人事件』を購入して読んでみたが…、

本を手に取る前にイメージしていたのは本格的なミステリーだった。上下巻で合計1,000ページにもなろうかという大作で、かつ太平洋戦争の軍艦上での話なので出てくる漢字に難しいものが多いという難関なんだけど、一気に読んでしまう期待感はずっと最後まであった。しかし、ミステリーというよりも、終盤はオカルトのようなストーリーになっていた。エンディングは急に駆け足になり、あれよあれよと訳の分からない展開で終わってしまうのも納得できない。
太平洋戦争、天皇、神器、日本人に対する作者の思いがあるのか、特にかなりのページを割いて太平洋戦争論が明らかに語られている。この本を買うきっかけになった朝日新聞の書評を改めて読み直してみると、作者は「自分が今生きているこの時代をとらえたいと思ったとき、日本の近代の転換点となったアジア太平洋戦争を避けては通れない。自分たちの歴史をどう描くのかという問題に直面したとき、私は歴史叙述ではなく、小説という形で繰り返しことばによって対象を測りながら経験化していこうと思ったのです」などと語っている。しまった、これはミステリーではなかったのだ。
太平洋戦争をこういう見方もできるのかという視点で捉えれば、まあふむふむという発見はあることはあるけど、こんな本にしなくても「いいんじゃね」と、“毛抜け鼠”になってしまう。




"神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件" (奥泉 光)

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